カワアオノリ Blidingia ramifera
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年6月28日
 
カワアオノリ(川青海苔)
Blidingia ramifera (Bliding) Garbary & Barkhouse 1987: 259. nom. inval. [非正式名]
 
緑藻植物門(Phylum Chlorophyta),アオサ藻綱(Class Ulvophyceae),アオサ目(Order Ulvales),モツキヒトエ科(Family Kornmanniaceae),ヒメアオノリ属(Genus Blidingia
 
掲載情報
飯間 2015: 301.
 
Basionym
  Blidingia minima var. ramifera Bliding 1963: 27. Figs 8, 9. nom. inval. [非正式名]; 秋山ら 1977: 327. Pl. 108, Figs 4a-e; Iima et al. 2004: 179-180. Figs 2-5.
その他の異名
  Enteromorpha nana var. subsalsa auct. non (Kjellman) Sjöstedt (1939); 山田・廣瀬 1943: 254-257. Figs 1-3.
 
Type locality: Karlshamn, Bleking, Sweden
Holotype specimen: LD 2017612 (Lund University)
 
環境省レッドリスト2020:絶滅危惧I類(CR+EN);栃木県版レッドリスト(2018年版):絶滅危惧I類
 
分類に関するメモ:Bliding (1963) は,Blidingia minima var. hamiferaを記載した際,Holotypeの収蔵場所は示したものの,タイプ産地等の情報を掲載しませんでした。このため,国際藻類・菌類・植物命名規約(ICN)において非正式名(invalid name)となります。Bliding (1963) はholotype specimenをLD (Lund University) に収蔵したと述べていることから,LDのデータベースを検索したところ,holotypeと考えられる標本(LD 2017612)の画像が掲載されていました。おそらくタイプ標本として間違いないと思いますが,標本ラベルによると,タイプ産地はスウェーデン,ブレーキング郡のカールスハムンと考えられます。
 
カワアオノリ Blidingia ramifera
 
カワアオノリ Blidingia ramifera
撮影地:栃木県 日光市 竜頭の滝;撮影日:2001年4月2日;撮影者:鈴木雅大
 
カワアオノリ Blidingia ramifera
 
カワアオノリ Blidingia ramifera
採集後,直ちに押し葉標本を作製しました。
 
カワアオノリ Blidingia ramifera
押し葉標本(採集地:栃木県 日光市 竜頭の滝;採集日:2001年4月2日;採集者:鈴木雅大)
 
カワアオノリ Blidingia ramifera
撮影地:栃木県 日光市 竜頭の滝;撮影日:2002年3月30日;撮影者:鈴木雅大
 
淡水産種で,日本では日光市の竜頭の滝周辺でしか見つかっていない稀少種で,環境省のレッドリストでは絶滅危惧I類(CR+EN)に指定されています。著者は2001年と2002年に,故吉﨑誠先生(東邦大学名誉教授)に連れられ,本種を採集したことがあります。当時学生だった著者は,本種が稀少種だということを知らず,恩師とともに押し葉標本作りに励みました。この仲間は,採集後たっぷりの水に入れておかないと,絡み合って団塊となり,標本を作る際に広がらなくなってしまいます。吉﨑先生と著者は大学のハイエースの荷台にバットを置き,採集後直ちに押し葉標本を作製しました。押し葉を作る際,枝を広げていると中から水生昆虫の幼虫らしき川虫が次々と出てきます。さすがは淡水藻だと思いました。著者は淡水藻類にあまり興味が持てないため(理由:クモ恐怖症),本種のことをしばらく忘れていたのですが,本サイトに写真を掲載する際,本種が日光市にしか生育していない稀少種だということを知って大変驚きました。著者と師匠とでかなりの個体を採集,押し葉標本にしていましたが,採り尽くしていたらと思うとゾッとします。無知とは怖いものだと思いました。著者が作製した押し葉標本は全て国立科学博物館に寄贈しました。

本種の分類は幾つかの問題を抱えています。従来の分類体系では,本種を海産のヒメアオノリ(Blidingia minimaの変種B. minima var. ramiferaとするか,独立した種B. ramiferaとするかで見解が分かれてきました。Bliding (1963)は,本種をBlidingia minimaの変種として記載しましたが,Garbary & Barkhouse (1987)はこれを独立の種としています。Iima et al. (2004)によると,rbcL遺伝子を用いた分子系統解析の結果,本種はBlidingia minimaのクレードに含まれるものの,本種を含むBlidingia minimaは4つのクレードに分けられる事が示唆されました。4つのクレードそれぞれが独立した種である可能性が高いと考えられるため,本サイトでは,本種をB. ramiferaとしました。しかし,B. ramifera及びB. minima var. ramiferaは,記載時にタイプが示されておらず,国際藻類・菌類・植物命名規約(ICN)において非正式名(invalid name)です。

Burrows (1991) はB. ramiferaの特徴である棘状の小枝は,汽水あるいは淡水域でみられる生育型である可能性を言及しており,Guiry & Guriy (2011)などはB. ramiferaをホソヒメアオノリ(B. marginata)のシノニムとしています。ホソヒメアオノリは汽水産種なので,本種と近い関係にあってもおかしくはありませんが,上述のように本種は独立の種である可能性が高いため,ホソヒメアオノリと同種として良いかどうかは更なる検討が必要と考えられます。分類学的検討と整理が俟たれています。

 
参考文献
 
秋山 優・廣瀬弘幸・山岸高旺・平野 實 1977.緑藻綱.In: 廣瀬弘幸・山岸高旺(編)日本淡水藻図鑑.pp. 275-760. 内田老鶴圃,東京.
 
Bliding, C. 1963. A critical survey of European taxa in Ulvales. Part I. Capsosiphon, Percursaria, Blidingia, Enteromorpha. Opera Botanica 8: 1-160.
 
Burrows, E.M. 1991. Seaweeds of the British Isles. Volume 2. Chlorophyta. 238 pp. Natural History Museum Publications, London.
 
Garbary, D.J. and Barkhouse, L.B. 1987. Blidingia ramifera (Bliding) stat. nov. (Chlorophyta): a new marine alga for eastern North America. Nordic Journal of Botany 7: 359-363.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2011. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 28 June 2011.
 
飯間雅文 2015. カワアオノリ.In: 環境省(編)レッドデータブック 2014 -日本の絶滅のおそれがある野生生物- 9 植物II(蘚苔類・藻類・地衣類・菌類).p. 301. ぎょうせい,東京.
 
Iima, M., Hanyuda, T., Ueda, K., Yoshizaki, M. and Ebata, H. 2004. Morphology, ontogeny and phylogeny of freshwater green alga, Blidingia minima var. ramifera (Ulvales, Ulvophyceae) from Nikko, Tochigi Prefecuture, Japan. The Japanese Journal of Phycology 52 (Supplement): 177-182.
 
山田幸男・廣瀬弘幸 1943. 日本淡水産あをのり屬ノ一種かはあをのりニ就テ.植物研究雑誌 19: 252-257.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ緑色植物亜界アオサ藻綱アオサ目
 
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