植物組織の観察

作成:鈴木雅大 作成日:2010年9月10日 更新日:2011年7月17日

はじめに
 植物や動物の体はどのような構造になっているのでしょうか。「細胞 cell」は集まって「組織 tissue」を作ります。「組織」が集まったものが「器官 organ」です。植物の基本的な「器官」は,「根 root」,「茎 stem」,「葉 leaf」です。中学校,高等学校で「生物」を習った事のある人ならば,タマネギの細胞や口腔粘膜細胞などを観察したことがあるでしょう。ですが,根,茎,葉の「組織」を観察した経験のある人は少ないのではないでしょうか。著者は,ツバキの葉,センニンソウの茎,ニオイイリスの根を用いて植物組織を教えています。いずれも観察が容易で,かつ典型的な組織を学ぶことが出来る材料です。ここでは,この3種を用いた植物組織の観察と発展学習としてムラサキツユクサの気孔,ススキの維管束の観察などを紹介します。
 
植物組織とは
 植物の「組織系 tissue system」には,Sachs(ザックス)(1868),van Tieghem(ヴァン・ティーゲン)(1886),Haberlandt(ハーバーランド)(1914)による3通りの分け方が提唱されています。Sachs (1868) は,維管束に重点をおき,植物組織を1) 表皮組織系 dermal tissue system,2) 維管束組織系 vascular tissue system,3)基本組織系 ground tissue system (fundamental tissue system)に分けました。van Tieghem (1886) は,中心柱に重点をおき,1) 表皮系,2) 皮層系,3) 中心柱 central cylinder に分けました。Haberlandt (1914) は,生理解剖学的見地から 1) 分裂組織 meristem,2) 皮膚組織,3) 機械組織 mechanical tissue,4) 吸収組織 absorptive tissue,5) 同化組織 assimilation tissue,6) 通道組織 conductive tissue,7) 貯蔵組織 reserve tissue,8) 通気組織 aerenchyma,9) 分泌組織 secretory tissue, 10) 運動組織 locomotive tissue,11) 感覚器 sense organ,12) 刺激伝達組織 stimulus conducting tissue に分けました。これらの組織系は,組織の起源や構造,機能や生理学的現象に応じて使い分けられ,便利に用いられています。植物の葉や茎の切片を観察した際に最も目につくものを太字にしました。これらの用語は,植物の組織を観察し,児童生徒に教える上で正確に理解している必要があります。
 

ザックス(左)とヴァン・ティーゲン(右)の組織系:植物の茎を横断した際,組織は3つのタイプに分けられます。ザックスの組織系が組織構造に基づいているのに対し,ヴァン・ティーゲンの組織系は組織の起源と発生に基づいています。植物組織の話としてはザックスの組織系の方が広く用いられており,本サイトでもザックスの組織系を採用しています。しかし,ヴァン・ティーゲンが提唱した中心柱は,茎と根の組織の違いやシダ植物から被子植物に至る植物の系統関係を解剖学的な面から検証する上で欠かせません。

 
表皮組織系 dermal tissue system
多くの植物の表皮 epidermis は葉緑体を含まない1層の細胞から成っています。植物体を守るため,細胞壁を厚くしたり,細胞壁のセルロースとクチンが結合してクチクラ層 cuticular layerを形成したり,スベリンと結合してコルク化したりします。また,表皮の外側に蝋(ロウ)を分泌するものもあります。表皮には特殊化した細胞が見られます。代表的なものは気孔と,表皮細胞が変形した毛でしょう。気孔 stomataは,二酸化炭素の吸収と酸素の排出,蒸散による水の放出という植物の生死に関わる重要な役割を担っています。気孔には1組の半月形の孔辺細胞 guard cellが隣接しています。孔辺細胞には葉緑体が含まれています。孔辺細胞が変形することで気孔が開閉します。ツバキなどでは気孔は葉の下面のみに形成されますが,植物全体では両面に形成されるものの方が多いです。下面に多く形成されますが,単子葉植物の一部やオカヒジキのように葉の下面と上面とで気孔の数に差が見られないものがあります。 hair は,表皮細胞が突出変形したもので,主として体の保護をしています。単細胞からなるものから多細胞になるもの,その形態や機能は様々です。
 
維管束組織系 vascular tissue system と中心柱 central cylinder
 シダ植物と種子植物の体内には,根,茎,葉をつらぬいて,水や光合成によって作られた栄養物を運ぶ維管束 vascular bundle があります。維管束組織は木部と師部とに分けられます。木部 xylem は根で吸収した水と無機物を運び,師部 phloemは葉で作られた光合成産物を運びます。維管束は,木部と師部の配列様式によって,並列維管束 collateral vascular bundle複並列維管束 bicollateral vascular bundle放射維管束 radial vascular bundleなどに分けられます。また,木部と師部の間に形成層 cambium が形成されるものを開放維管束 open vascular bundle,形成層が形成されないものを閉鎖維管束 closed vascular bundleといいます。

 根茎葉の皮層の最内層を内皮 endodermisとよび,内皮の内側の基本組織と維管束をまとめてひとつの構造とみたのが中心柱 central cylinderです。しかし,内皮は通常,根でしか見ることが出来ないため,茎と葉では中心柱の範囲を定めることは出来ません。中心柱は,維管束の配列様式によって,原生中心柱 protostele,真正中心柱 eustele不斉中心柱 atactostele放射中心柱 actinosteleなどに分けられます。

 
中心柱の模式図:植物組織の観察で見られる主な中心柱の模式図です。師部を黄色,木部を赤色で示すのが通例です。
   
真正中心柱

 

維管束が等間隔で環状に並んでいます。主に双子葉植物の茎で見られる中心柱です。
   
不斉中心柱   維管束が不規則に散在します。主に単子葉植物の茎で見られる中心柱です。
   
放射中心柱   全ての維管束植物の根で見られる中心柱です。木部の形は植物の種類によって様々ですが,中心部から腕を出すように木部が位置し,師部は木部の腕の間に挟まれるように配列します。
 
維管束の模式図:植物組織の観察で見られる主な維管束の模式図です。
 
並立維管束   木部と師部が対になった維管束です。被子植物,裸子植物の茎,葉で一般的に見られます。茎では,表皮側が師部,内側が木部です。
 
複並立維管束

 

双子葉植物のナス科,ウリ科,キョウチクトウ科などで見られます。師部が木部の外側と内側の両方に配置します。開放維管束で,形成層は外側の師部と木部の間に見られます。
 
開放維管束   師部と木部の間に形成層が見られます。形成層によって茎が太く生長出来ることから開放維管束と呼ばれています。
 
閉鎖維管束   師部と木部の間に形成層が見られません。形成層が無いため,閉鎖維管束である多くの単子葉植物は茎が太く生長しません。単子葉植物に木本が少ないのはこのためです。
 
基本組織系 ground tissue system (fundamental tissue system)

 表皮でも維管束でもない組織を基本組織系 ground tissue system (fundamental tissue system)といいます。基本組織系の中で最も普通にふつうに見られるのは柔組織 parenchymaです。柔組織は通常,細胞壁が薄く,特殊な細胞は見られません。柔組織を構成している細胞を柔細胞 parenchyma cellといいます。柔組織の細胞には葉緑体,デン粉粒,結晶などが見られ,光合成や光合成産物の貯蔵など,植物の代謝機能の大部分を担っています。

 柔組織はその名の通り,柔らかく,外部からの力に脆弱です。そこで,柔組織や植物体を支え,保護するために機械組織 mechanical tissueが発達します。機械組織には厚壁細胞と厚角細胞の二種類の細胞があります。細胞壁が遠心的に肥厚し,リグニンによって強化された細胞を厚壁細胞 sclereid cell (sclerenchyma cell)といいます。細胞は死んでおり,壁孔 pitによって連絡しています。厚壁細胞が集まったものが厚壁組織 sclerenchymaです。厚角細胞 collenchyma cellは,厚壁細胞と同様に細胞壁が肥厚した細胞ですが,細胞壁はリグニンを含まず,細胞は生きています。柔組織の細胞同様,細胞同士の水,栄養分の供給も円滑で,細胞の生長が制限されず植物体を柔軟に支持します。細胞の角の部分の細胞壁が肥厚したもの(角隅肥厚),細胞の側面の細胞壁が肥厚したもの(板状肥厚)など,その形も様々です。厚壁細胞,厚角細胞は植物体の様々な場所で見られ,植物体を保護しています。
 
用意する物
ピンセット,シャーレ,片刃カミソリ面相筆(メンソウフデ),スライドグラス,カバーグラス,色鉛筆,ティッシュペーパー(キムワイプ)
 
はじめに

  植物組織の観察は材料次第
 
 
観察

  ツバキの葉の構造の観察

  センニンソウの茎の維管束の観察

  ニオイイリスの根の横断面の観察
 
発展学習

  ムラサキツユクサの気孔と毛*一部作成中

  ススキの維管束
 
小学生に教えるには
ホウセンカの吸水実験(準備中)
 
植物組織の観察に適した教材
 植物,動物に関わらず,生きものを扱う実験・観察で最も苦労するのが,材料の調達でしょう。ここでは,植物組織の観察に適した材料,主に通年使え,簡単に採集あるいは栽培出来る,典型的な組織を観察出来るなどの条件を満たした教材について検証します。
  センニンソウの代わりを探して(茎の観察)
    アヤメ科ならどれでも良いか?(根の観察)
 
植物組織の観察テキスト
鈴木雅大 植物組織の観察テキスト(pdfファイル)
 鈴木が3時間の実習(大学1年生(文学部)対象)で使っていたテキストです。(2010年10月5日更新)
 
鈴木雅大 植物組織の観察と教育 ~塗り絵の活用~(JPEGファイル)
 日本生物教育学会第90回全国大会(2011年1月;埼玉大学)で発表したポスターです。約4MBあるので,右クリック→「対象をファイルに保存」でダウンロードして下さい。
 

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