セイヨウタンポポ Taraxacum officinale
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2016年12月5日
 
セイヨウタンポポ(西洋蒲公英)
Taraxacum officinale Weber ex F.H. Wiggers, 1780
 
維管束植物門(Phylum Tracheophyta),種子植物亜門(Subphylum Spermatophytina),被子植物("Angiospermae"),モクレン綱(Class Magnoliopsida),キク上目(Superorder Asteranae),キク目(Order Asterales),キク科(Family Asteraceae),タンポポ亜科(Subfamily Cichorioideae),タンポポ連(Tribe Cichorieae),タンポポ属(Genus Taraxacum
 
新エングラー体系:被子植物門(Phylum Angiospermae),双子葉植物綱(Class Dicotyledoneae),合弁花植物亜綱(Subclass Sympetalae),キキョウ目(Order Campanulales),キク科(Family Compositae)
クロンキスト体系:被子植物門(Phylum Magnoliophyta),モクレン綱(Class Magnoliopsida),キク亜綱(Subclass Asteridae),キク目(Order Asterales),キク科(Family Asteraceae)
 
セイヨウタンポポ Taraxacum officinale
 
セイヨウタンポポ Taraxacum officinale
撮影地:神奈川県 三浦市 三崎町 小網代;撮影日:2010年4月30日;撮影者:鈴木雅大
 
セイヨウタンポポ Taraxacum officinale
撮影地:岩手県 下閉伊郡 山田町 船越;撮影日:2007年5月;撮影者:鈴木雅大
 
ヨーロッパ原産の外来種です。環境省及び農林水産省が作成した生態系被害防止外来種リストでは,「重点対策外来種」に選定されています。外総苞片が反り返ることでカントウタンポポなどの在来種と区別していましたが,実際は在来種のタンポポとの間で複雑なパターンの雑種を形成しており,純粋なセイヨウタンポポは全体の2割程度というデータもあります(芝池・森田 2003,芝池 2005など)。雑種性のタンポポは遺伝子マーカーを使ったDNA鑑定によって区別するのが確実ですが,花粉生産の有無や,外総苞片の形態によっても区別が可能なようです。著者はこれまで何か変だと思うことはあっても,外総苞片が反るものは全てセイヨウタンポポとしてきましたため,本サイトで紹介している個体も雑種タンポポの可能性があります。雑種タンポポの概要が明らかになるにつれ,セイヨウタンポポと在来種タンポポとの関係は単純な「タンポポ戦争(注)」では説明が付かなくなってしまいましたが,植物の生存戦略を考える上で大変面白いケースだと思います。

注.タンポポ戦争:帰化種のセイヨウタンポポが在来種のカントウタンポポが競合関係にあるというものです(小川 2001など)。一斉発芽型の種子発芽パターンを持つセイヨウタンポポが休眠性を持つ在来種のタンポポと比べて拡散能力が高いという分かりやすい構図で,著者が学生の頃は,高等学校の生物の教科書に載るなど,良く知られた問題でした。

 
雑種性タンポポの「ダラダラ発芽」
 
セイヨウタンポポの種子発芽曲線
一斉発芽型とダラダラ発芽型の2パターンを含む種子発芽曲線
 
著者は海藻の専門家ですが,学部3年時(2001年)に初めて行った学会発表は,セイヨウタンポポの種子発芽実験についてでした。この時,通常の一斉発芽型の種子発芽パターンとは異なるものがみられたことを報告しました。発芽速度を著す目安として,MGT (Medium Germination Time):最終発芽率の二分の一に達した日数が用いられています (小川 2001;Hoya et al. 2004, 2007)。セイヨウタンポポの種子発芽パターンは一斉発芽型と呼ばれ,MGTが10日以内と短く,高い発芽速度を示し,20日足らずで発芽を完了します。ところが,種子発芽実験を行うと,MGTが40-100日であり,発芽のピークが数回あり,発芽の完了までに50日以上かかるものが少なくありません。著者はこれを「ダラダラ発芽型」と呼んでいました。当時,雑種タンポポの実態は一般的に知られていなかったため,著者には「ダラダラ発芽型」の原因がさっぱり分かりませんでしたが,渡邊ら(2003)が行った雑種タンポポの種子発芽実験により,雑種タンポポが様々な発芽パターンを持つことが明らかになりました。雑種の形成パターンごとに種子発芽特性が決まっているのか,遺伝子の発現パターンに違いがあるのかなど,今なら様々なことが調べられるかもしれません(既に発表されているかもしれません)。タンポポには,生物学的に面白いテーマがまだまだたくさんあるなと,かつて作成した手書きのグラフを見ながら,しばし海藻以外のテーマに思いをはせました。
 
参考文献
 
Hoya, A., Shibaike, H., Morita, T. and Ito, M. 2004. Germination and seedling survivorship characteristics of hybrids between native and alien species of dandelion (Taraxacum). Plant Species Biology 19: 81-90.
 
Hoya, A., Shibaike, H., Morita, T. and Ito, M. 2007. Germination characteristics of native Japanese dandelion autopolyploids and their putative diploid parent species. Journal of Plant Research 120: 139-147.
 
邑田 仁 監修.米倉浩司 著.2012. 日本維管束植物目録.379 pp. 北隆館,東京.
 
小川 潔 2001. 日本のタンポポとセイヨウタンポポ.130 pp. どうぶつ社,東京.
 
芝池博幸 2005. 無融合生殖種と有性生殖種の出会い -日本に侵入したセイヨウタンポポの場合-.生物科学 56: 74-82.
 
芝池博幸・森田竜義 2003. 拡がる雑種タンポポ.遺伝 56 (2): 16-18.
 
渡邊幹男・神崎護・櫛田敏宏・芹沢俊介 2003. セイヨウタンポポ,ニホンタンポポおよびその雑種の発芽特性.植物地理・分類研究 51: 183-186.
 
米倉浩司・梶田忠 2003-.「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList),http://ylist.info(2016年12月5日閲覧)
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ緑色植物亜界有胚植物上門被子植物キク上目キク目キク科タンポポ亜科
 
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